イタリアはクレモナでその技を競った数多の弦楽器製作者の中でも、ニコラ・アマティの弟子で天才ヴァイオリン職人と言われたアントニオ・ストラディヴァリ。
彼に捧げたオマージュというだけあって、このスピーカーはSonus Faber社の、いや、現代のスピーカーシステムの中でも最高傑作の一つと言えましょう。 Sonus Faber社は1980年に陸のベネチアと呼ばれる、北イタリアのヴィチェンツァの地に、Franco(フランコ) Serblin(セルブリン)によって創立された、< スピーカー専業メーカーです。社名のソナス・ファベールとは、「音の工房」という意味で、1988年、Electa(エレクタ) Amator(アマトール)が同社の製品として 初めて日本に紹介されました。低域用には18cmの小型ウーファーを、高域用には2.8cmのソフトドーム型ツィーターを配し、エンクロージャーには寄せ木細工を使用。 フロントバッフルは本革張り、スピーカースタンドのベースには大理石を使用するという凝り様で、その端正で美しいたたずまいと、濡れた美しい音色の弦楽器が、 クラシック音楽ファンを魅了しました。 1993年には、密度や剛性の異なる42ピースの木材を組み合わせたリュート型の、18世紀の弦楽器製作の巨匠、ガルネリを讃えたGuarneri(ガルネリ) Homageを発表して、 注目を浴びました。 そして1998年に発表されたAmati(アマティ) Homageはそれまでの路線とちょっと異なり、スタンドの上にスピーカーを載せるのではなく、スタンドの部分も含めて 一つのエンクロージャー構造としたトールボーイ・タイプのスピーカーとなり、さらにスケールの大きい音を楽しむことが出来るようになりました。 さらに5年の歳月が流れ、2003年に新たなコンセプトでヴァイオリンのハーモニック・プレーン(表板)の考えを採り入れた、奥行きの浅い、平面タイプの エンクロージャーによるスピーカーシステムを発表しました。 その特徴は先に書いた通りで、補足するなら、ヴァイオリンのAmatiに対してStradivariがそうであるように、スケールが大きく、朗々とした鳴りっぷりが非常に魅力的です。 以前私が使っていたタンノイのスピーカーは、「タンノイ・ホール」と称されるほど、特徴のあるホール感タップリの音を聴かせてくれます。どんな音源を持ってきても、 タンノイの音に染めてしまうので、ある意味では安心して聴いていられるメリットがある反面、ウィーンフィルのムジークフェラインならではの音を楽しみたいと思った時、 あるいはアナログ・レコードではなく、CDならではの空間分解能に優れた、広がりのある音場を楽しみたい場合には、この「タンノイ・ホール」が邪魔してしまうことが ありました。 デジタル録音以前のアナログ録音の時代は、各楽器の音を明瞭に収録するため、マイクロフォンを多数使用する「マルチマイク・セッティング」が中心でした。 しかしこれはともすると、トランペットとフルート、ヴァイオリンが、別々の場所からニョキッと顔を出し、本来、ホールで聴くことの出来る、見事に融け合った、 美しい響き、とはいきません。そこで特にスピーカーではユニットの持つ固有の音だけではなく、エンクロージャーの響きを上手に引き出すことによって音をブレンド・ 再構築し、あたかもホールの中で聴いているような雰囲気を醸し出す必要があったのです。 言い方を変えれば、クラシック音楽を中心にアナログレコードを主にお聴きになる方には、それが媚薬のように効いてくるわけで、「CDの音が堅くて嫌だ」 「CDはキンキンしている」と感じていらっしゃる場合には、うってつけのスピーカーと言えましょう。 しかし、タンノイのスピーカーの特徴である同軸2ウェイ(デュアルコンセントリック)ユニットは1947年、ロナルド・H・ラッカムらが開発、 1953年、ニューヨーク・オーディオショーに発表されたAutograph(オートグラフ)に搭載、同時に発売された、50年以上も前の技術です。 新しいCD時代ならではの良さを楽しむには、一つのスピーカー・ユニットに低域を担当するウーファーと、高域を担当するツィーターを組み込むのは、 歪みの点でも不利です。そして不足する低域をエンクロージャーを共鳴させることで補う手法は、音像がどうしても大きくなりがちで、 ピンポイントの音像で音場描写を得意とするCDには、その良さが活きてきません。 その点、Stradivari Homageはエンクロージャーをあまり共鳴させず、反響をうまくコントロールしながらユニットの性能を最大限に引き出すエンクロージャー構造とし、 ワイドレンジ、低歪率、高分解能でありながら、クラシック音楽などでは深々とした低域の再生を可能としています。それでいてパルシブなサウンドにレスポンス良く 反応出来るので、デジタル録音された最近の演奏なら、ジャズやポピュラー音楽でも、その実力をいかんなく発揮してくれます。 とは言うものの、基本的には Electa(エレクタ) Amator(アマトール)以来の、濡れた美しい音色をしっかり受け継いでおり、E.A.Rやユニゾンリサーチの 真空管アンプと組み合わせ、女性ボーカルを聴いていると、思わず生唾を飲み込んでしまうくらい、色気タップリの音を楽しむことが出来ます。 ※下記の画像をクリックすると、拡大して画像をご覧になれます。戻る時には、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして下さい。 |
正面像です。 ユニット前面のみネットがかけられています。 |
背面です。 最初からスパイク対応のベースをエンクロージャー 底面に取り付ける構造になっています。 |
背面ダクトから中のウーファー付近を 見ることが出来ます。 |
前面足下です。 前の方がスパイクが長めです。 |