■HARBETH HLCompact 7ES-3とSonus Faber Stradivari Homageを鳴らす■




以下、写真の説明です。

下段左:GAS「THAEDRA II」(ボンジョルノ)
ラック下段: S.S.T. 「Son of Ampzilla 2000」(ボンジョルノ)
下段右:GAS「THAEDRA」(ボンジョルノ)
ラック中段:LINN Klimax Renew DS & LNP-2L電源
ラック上段:Sonus Faber Musica
VIOLA LEGACYの右上:Mark Levinson LNP-2L
VIOLA LEGACYの左上:SUMO POLARIS(ボンジョルノ) JBL DD66000の間:200V-->115V & 100Vトランス

ジェームス・ボンジョルノ氏の手によるアンプが幾つか試聴出来る環境になったので、個人的な感想を書いてみることにします。

試聴を行った組み合わせは、スピーカーはHARBETH HLCompact 7ES-3
ソースはLINN Renew Klimax DSで、主にジャズです。
インターコネクトケーブルはAET Evidence RCA、スピーカーケーブルはAET Evidence SPです。

ケーブル類は他にも
・WE-AIW 10GA SP cable(YラグはWBT-0681Cu フォーク部内寸: 8mm使用)
・EXIMA Speaker Cable
・BELDEN 8423 TRS phone-XLR silver(XLR側RCAに変換プラグ使用)
も使用してみましたが、全体の本質的な傾向は変わりませんでした。

スピーカーをSonus Faber Stradivari Homageでも聴いてみましたが、相性なのか、Sonus Faber Stradivari Homageの密度が濃くて透明感のある、 繊細でしなやか、伸びやかなサウンドにはちょっとマッチしない感じの音で、これはスピーカーはSonus Faberを選択するな、 ということだと悟り、Sonus Faber Stradivari Homageでの試聴は中断しました。

KISO HB-X1は低域が元々、あまり出ないので、微妙な比較試聴にによる評価には向かないみたいで、結局、スピーカーはHARBETH HLCompact 7ES-3で 判断することにしました。

SUMO POLARISは音の響きや音の粒立ちを大切にするというより、グイグイ引っ張っていくような鳴り方をするようです。
音が一つの塊になったような感じもします。その分、色彩感が乏しくなったような感じも受けます。
この傾向はプリアンプもSUMO ATHENAを使用するとさらに顕著に出てきます。
SUMO ATHENA & POLARISではマッチョな男たちが、筋肉美を競っているような、ちょっと暑苦しさを覚えます。
でもこれは見方を変えると、低域が出過ぎてコントロールで苦労していた方にはとても朗報なアンプとも言えます。

GASアンプジラはファンの回転音が人によっては耳について、小さい音量や、音楽の余韻まで楽しむ方には向かないでしょう。
しかしそんなことは気にせず、ある一定以上の音量で、スピーカーをガンガン鳴らして楽しむ方には、好ましいアンプに映るでしょう。
さらに音の粒立ちも少し大きめで、ハッキリ、クッキリしていますので、大きな部屋で大型システムを少し離れて聴くのに適しているかと思います。

次にパワーアンプをS.S.T.「Son of Ampzilla 2000」に固定し、プリアンプを変えてみました。

GAS「THAEDRA」は初期型と、IIがあるようですが、IIでは音の粒立ちも良く、低域も良く出ていて楽しめる音です。
これを初期型のTHAEDRAにすると、音の粒立ちがわずかに大人しくなり、中高域はフレッシュ感のある、伸びやかさが伴う一方、低域は出てはいるものの、 量感がそれほどではなく、寸詰まり感がわずかにあるように思います。
ダンピングファクターが大きくて低域の制動が良すぎるのでしょうか?

とは言うものの、IIの音を聴いていなければ、寸詰まり感なんて覚えないほどで、それくらいIIは開放的で華やかな音です。
しかし、よくよく聴いてみると、IIは音の粒立ちが大きく、低域は初期型と較べて、ちょっと強引に持ち上げているようなピーク感があります。
その後のSUMO程のマッチョ感まではありませんが、低域の量感が強めで、高域も音の粒が大きめ。
つまり、作った音、という気がするのです。このあたりが評価が分かれるところかと思います。
でも、HARBETH HLCompact 7ES-3のエンクロージャーを上手に響かせ、大型スピーカーにも負けないくらいの鳴りっぷりを披露してくれるあたりは、脱帽です。

SUMO ATHENAは寸詰まりを通り越して、ちょっと解像度不足か、と思わせるような音で、半日鳴らしても改善しませんでした。
かといって、パワーアンプがSUMO POLARISの時よりは分解能が良いので、パワーアンプだけ問うなら、この組み合わせの方が好みです。
しかしGAS「THAEDRA」IIの色彩感、表情の豊かさには及ばないので、SUMO ATHENAの出番はありません。

と言うわけで、私の選んだ組み合わせは、GAS「THAEDRA」II & S.S.T.「Son of Ampzilla 2000」です。
そしてこれはスピーカーを「KISO HB-X1」に変えても、十分に楽しめる音でした。
しかし、これはあくまでジャズやポピュラー音楽をHARBETH HLCompact 7ES-3で聴くことを前提としたアンプの選択です。

クラシック音楽、中でも室内楽を聴くなら、プリメインアンプですが、 Sonus Faber Musicaの、気品があってしなやかで懐が深く、 馥郁として爽やかに吹き抜けていく音を一度耳にしたら、これを超えるのはFMアコースティックくらいしかないかな、なんて思ってしまうほど、 衝撃を受けたものです。

Sonus Faber MusicaとSonus Faber Stradivari Homageとの組み合わせはさすがと思わせるものがありますが、せっかくのStradivari Homageの解像度を活かすなら、 パワーアンプはFirst Watt SIT-1の圧倒的な鮮度(曇りがなく明瞭で勢いのある音)、空間分解能も活かしたいところです。
が、SIT-1ではいかんせん、パワー不足。

そこで、Sonus Faber Musicaのヒューズをフルテックのオーディオ用に交換してみることにしました。
First Watt SIT-1でも効果があったので、ぜひ試してみようと思っていました。
驚いたことに、解像度が上がって、直接音と音楽ホールの残響成分が共鳴して、時に唸るような音のしなりを体感できるようになったのです。
高額なアンプでも、これを濁りなく鳴らしきるアンプは、本当に数少ないものです。
かのボンジョルノの手によるGAS THAEDRA II & Son of Ampzilla 2000では生き生きと鳴り、 音は弾んでくれて粒立ちが素晴らしいのですが、音のしなりまではもう一歩のところで、 Sonus Faber Musicaほどは再現できません。

残響の美しさでは、浮遊感が見事なAYRE KX-R(プリアンプ) & MX-R(パワーアンプ)が今までの中では 最右翼に上げられますが、それとも違い、しっかり地に足を付けています。

イタリア貴族のお姫様が嫁ぎ先で手の込んだ高級な宮廷料理ばかり食していて、 このところ元気がなく、とんと笑顔を見せてくれなかったのが、 郷里の友人たちが訪ねて来て、持ち込んだソウルフードを食したところ、破顔一笑、 「これよ、これ!」そう言うと、大きく目を見開いて元気に歌い出した、 そんな感じの歌いっぷりです。

思わず、聴き手の自分まで、胸が高鳴り、そして胸が熱くなるような鳴り方でした。
室内楽はもちろん、オーケストラも、大貫妙子や坂本真綾、Rickie Lee Jonesなどの 女性ボーカルも見事!
久しぶりに感動のサウンドでした。

おそらくFMアコースティックならもっと解像度もあるだろうし、低域も出るでしょう。 EARの妖艶さに及ばないのは、言われるまでもありません。
First Watt SIT-1の抜群な解像度と、まるで近世の名刀のような、 切れ味鋭くローエンドまで伸びきったサウンドにはさすがに敵いません。

でも、弦楽器の奏でる、芯がありながら余韻がしなる響きの美しさ、 吹き抜ける爽やかな風の心地よさは、これはこれで、また格別。
かつて長野県原村の「ペンション・ムジカ」で聴いたオートグラフの 颯爽と爽やかに吹き抜けるサウンドを彷彿とさせます。
写真はこちら
残念ながら2013年4月末で閉店とのこと。最後にもう一度、行ってみたかったですね。
ちなみにシステムは以下の通り。
プレーヤ:ガラード401
カートリッジ:オルトフォンSPU-G
昇圧トランス:カンノSPU30(カンノ・スーパーパーマロイ・トランス結合式タイプSPU)
WE-262B-349A-284Dのモノラルパワーアンプ
CDプレーヤーはフィリップスLHH1000

オートグラフはスピーカーで音を再構築し、あたかもそこで演奏しているかのように鳴らす、音像型スピーカーです。
Sonus Faber Stradivari Homageはエンクロージャーをうまく響かせる音像型の特性を持ちながら、 スピーカーユニットの持つ抜群な解像度と、100kHz近くまでフラットな特性を武器に隠し持っています。

Sonus Faber Stradivari Homageの中高域の明るさ、緻密でエネルギー感のある音はこういう風に 鳴らせば線が細くもならないし、余韻の美しさを引き出せるんだ、というようなお手本のような鳴らせ方を Musicaは聴かせてくれます。

まぁ、Sonus Faber Musicaのその名が示すように、自分の所のスピーカーを鳴らすのを 最善に考えたプリメインアンプですから、うまく鳴って当然なのでしょうが、個人的な 感想を言わせていただければ、「自分の所のスピーカーの良いところも悪いところも 知り尽くしていて、どう鳴らせば良いか十分なノウハウがあるんだから、ずるいよなぁ」です。

ともすれば、Sonus Faber Stradivari Homageの中低域の厚みが不足しがちなところも見事に解消されています。
ローエンドだって、FMアコースティックやFirst Watt SIT-1程には伸びていませんが、 肉厚で実体感のある音です。First Watt SIT-1の時のようにトルク不足による、中低域のパンチ力不足に陥ることはありません。

もっとも、ジャズに関して言えば、細川綾子さんの女性ボーカルは抜群ですが、余韻まで全部響かせてしまおうとするので、 音が重なり合ってしまい、シンバルを切れ味鋭く鳴らして色彩豊かに描き分けることは、不得意のようです。
とは言うものの、余韻の部分とアタックの部分をきちんと描き分けて余韻が漂う様を楽しむのなら、 むしろSonus Faber Musicaは最右翼かも知れません。


Last update Oct.11.2015