■ First Watt J2 ■

 オーディオって、本当に、本当にわからないものです。
 あの、\2,980,000円もしたセパレートのメインアンプ、Ayre MX-Rを、ネルソン・パスの 手によるFirst Watt J2が、いとも簡単に主役の座を引きずり降ろしたのですから。
 サブシステムのB&W Sigunature Diamondのアンプ探しの一環として、当初はOVER model PM1 が圧倒的な存在感を示したのですが、OVER model PM1の原型ともなった、ネルソン・パスの First Wattのアンプということで興味を持ち、試聴してみました。
 OVER model PM1も凄かったのですが、First Watt J2は、達人と名人の差、とでも言いましょうか、 まるで次元が違いました。
 音のまとめ方、解像度、質感、いずれを取っても、今まで聴いてきたすべてのプリメインアンプ を超える出来映えでした。
 メインアンプなのにボリュームの無いメインアンプのFirst Watt J2をダイレクトのKlimax DSに 繋ぐことが出来るのは、Klimax DSのソフトウエアがCara 9にupdateされたため、可変出力が 可能に鳴ったからです。

 それはともかく、この音を聴いた時、おそらくどなたでも考えることだと思いますが、 「メインのシステムで聴いたら、どんな音がするのだろう?」
First Watt J2の値段は\400,000。一方、Ayre MX-Rは\2,980,000円。誰が考えても、 Ayre MX-Rに軍配が上がるであろうと考えることでしょう。
 さらに懸念もあります。
 それは、出力は8Ω負荷で25Wですが、拙宅のソナスファベールのストラディヴァリは4Ωなので、通常は出力が増加するケースが多いのですが、素子にJ-FETを使用しているFirst Watt J2は、逆に出力が15Wに減少してしまうのです。92dBと、比較的高能率のスピーカーではありますが、15Wで駆動するとなると、さすがにパワー不足になるだろう、と。

 しかし懸念は、その音が出た瞬間、吹き飛びました。
 Ayre MX-Rも透明感があって、空間描写能に優れた良いアンプですが、2階桟敷の遠くで聴いている 感じ。対して、First Watt J2は指揮者のちょっと後ろくらいで聴いている感じ。
 解像度が抜群で、オーケストラに少し顔を突っ込んで聴いているような錯覚を覚えます。それでいて 録音されている余韻も見事に再現してくれるので、同じオーケストラでもホールの違いで響きが 違ってくることを、これほど描き分けてくれるアンプはありません。
 低域も、高域も十分に伸びて、それでいて高域が耳障りになることもなく、低域もだぶついたり、 寸詰まりになることがありません。正直言って、驚きました。

 それだけではありません。当たり前の音を当たり前に、「この楽器、そう言えば、こういう音だった よな」と、実に自然に聴かせてくれるのです。しかも気品があり、さらにスピーカーがソナスファベールの メインシステムでは、男を喜ばせるツボを知り尽くした、小悪魔的な、とろけさせてくれる音まで聴かせてくれるのです。もちろん、スピーカーがソナスファベールのストラディヴァリだから成せる技、なのかも知れませんが。
 一見、大人しい物静かで真面目そうな小娘だと思ったら大間違い。
 脱がせてみたら、眩暈がするくらいの見事なプロポーションに加え、どこで覚えたか、 身も心もとろけさせる手練手管で、年甲斐もなく我を忘れて、この娘のためなら何でもしてあげたく なるような音、とでも申しましょうか。
 現実世界を、一瞬、忘れさせてくれるような、そんな音を奏でてくれます。

 結局、さんざん考えた末、メインシステムの座をAyre MX-Rから変えることに決断することになりました。
 もちろん、下取りに出してもお釣りが来る金額。そこで何をしたかと言うと、そのお金で新しい AETのEvidenceシリーズのケーブルを購入したのです。
 これがまたツボにはまって、粒立ちと解像度の抜群に良い音を奏でてくれるようになり、力感が 一層増して、15Wでも本当にパワー不足感の無い、クラシック音楽と女性ボーカル用システムが 出来上がりました。
 なお、ネルソン・パスのご尊顔を仰ぎたい方は、First WattWebをご覧下さい。
 まるで仙人のような、それでいてスケベそうなところは、E.A.R.のティム・デ・パラビッチーニ にそっくりです。音も真空管とFETの違いはありますが、たとえば、E.A.R.の859 Integrated Amplifier と、どことなく似通っているような気が、しないでもありません。




実に素っ気ない、あまりにも素っ気ない、フロントです。電源スイッチも見当たりません。


天盤には通気口がたくさん開いています。放熱板はパスラボのアンプのミニ版みたいな感じです。


電源スイッチは背部にありました。これが操作しにくい。とてもラックの中には入れておくことが出来ません。スピーカー端子も、VIOLA Legacyの様に、とまでは言いませんが、もう少し手で回しやすい ターミナルにして欲しい気がします。


Last update Oct.24.2010