■ First Watt SIT-1 ■

 オーディオって、本当に怖ろしいものです。
 そして、ネルソン・パスって、やっぱり凄い人です。
 あの、First Watt J2ですら凄いと思ったのに、その上を行く製品を出してくるのですから。
 SIT-1は、V-FETの最新版、スタティック・インダクション・トランジスター(Static Induction Transistor)と呼ばれるSIT素子を使用した純A級動作をする、出力10W、消費電力200Wの、 とても熱くなるモノラル・アンプです。
 J2でもヴェールを一枚剥いだような、鮮度の高い音でしたが、SIT-1は、エッジがクッキリ描かれ、音の一粒一粒がキリリと 引き締まっていながら、 音の表情が多彩で、楽器の立ち位置までが手に取るようにわかると言ったら言い過ぎかも知れませんが、 空間に広がる音の余韻と、本体部分を クッキリ描き分けるあたりは、他に追随を許さない出来映えと言って良いかも知れません。
 オーケストラのファースト・ヴァイオリンの最前列が2人であることを、音でわからせてくれた、初めてのアンプです。
 なめらかな音はなめらかに、荒っぽい音は荒く、底を這う低域は、底を這うように、当たり前のことなのかも知れませんが、 質感をこれだけ 正しく出してくれるアンプも珍しいかと思います。
 パワーは10Wですが、ソナスファベールのストラディヴァリを鳴らしても、J2の時よりパワー不足感を感じないのが不思議。

 そういうわけで、メインシステムのクラシック音楽用は、First Watt SIT-1に交代となりました。

 英文取扱説明書がネルソン・パスの First Watt SIT-1 Webからダウンロード出来ます。
 入力はアンバランスRCA入力のみ。XLRコネクタが付いていますが、これはなんと、入力インピーダンス切替用のジャンパー接続器として 使用するものです。
 通常は100Ωがデフォルトですが、XLRコネクタの上2つの内、左にジャンパーをセットすると10KΩとなる仕組みです。

 そしてもう一つ、オペレーティング・ポイントセッティングというメーターがフロントに付いています。
 通常は12時の位置が8Ωスピーカー用の最適ポジションとか。SIT-2ではそれが固定されています。
 拙宅のソナスファベール・ストラディヴァリのように低いインピーダンスのスピーカーでは、グリーンゾーンの内のやや左側が良いようです。

 注意することがあります。SIT-1はアンプ内部に一つのトランジスターしかなく、SITのGateに入った信号はDrainから出て増幅、フィードバックは なく、クラスAで動作しています。そのため、赤の出力ターミナルは、実際はグランドになるため、アクティブ・サブウーファーを接続する場合、赤 出力ターミナルはマイナス、つまりグランドに。黒出力ターミナルをプラス、アクティブに接続する必要があります。
 マルチ・チャンネルなどではなく、通常の2チャンネル・スピーカーの場合には、特に接続に注意は必要ありません。

エレクトリの日本語版取扱説明書より、以下引用です。

■ゲイン:18dB
■定格出力:10W/5% RGS 1kHz 8Ω
■入力感度:280mV/1W 出力時,1.4V/定格出力時
■入力インピーダンス:10kΩ/100kΩ切替
■推奨ソースインピーダンス:1kΩ以下
■出力インピーダンス:4Ω
■推奨ロードインピーダンス:4〜16Ω
■周波数特性:-3dB at 4Hz〜500kHz
■高調波歪率:0.7% at 1Watt
■出力ノイズ:150μVアンウエイト 20〜20kHz
■消費電力:200watts
■動作温度:55℃
■外形寸法:430(W)×400(D)×143(H)mm
■重量:13.14kg

 エージングの経過がちょっと他の機器と違うので、述べておきます。
 最初の1日くらいは、音が乾いていて、ちょっとざらつき気味です。ただし、解像度は当初から際だっており、その内、 良くなってくるだろうな、と期待させる音です。
 J2もそうでしたが、かなり音がほぐれてくるまで時間がかかります。完全に落ち着くまでは、一週間以上かかると思った方が良いでしょう。
 2日目に入って、音の粒立ちの荒さが取れてきます。
 3日目になると、音の粒立ちが細かになり、でも、一粒一粒が立っている感じで、解像度が一気に良くなってきます。
 しなやかな音はしなやかに、アタックの強い音は強く、肌触りの良い音は肌触りが良く、鳴ってきます。
 4日目くらいになると、一気に音に透明感が出てきて、きめ細やかな音に、美しい余韻が際だってきます。少し音が細身になった気がして不安になるかも知れません。でも、よく聴くと、野太い音は野太く出ているので、安心して下さい。
 さらに、繋ぐプリアンプやスピーカーとの相性がハッキリわかってきます。逆に、最低4日以上鳴らさないでプリアンプを決めると、 痛い目に遭うことがあります。せっかく手持ちの良いプリアンプを手放してしまう、暴挙に走りかねません。

 拙宅では、Ayreのプリアンプ、KX-Rを使用していますが、音が軽く、浮遊して地に足が着いていない感じがAyre MX-Rの時からあったのですが、 SIT-1になってからは、これがハッキリ出てきました。
 一方、今までEMT927用のフォノアンプとしか使っていなかった、OCTAVE HP500SE/SVですが、これがスピード感もありながら、真空管を 使用していることもあってか、実に見事な色気のあるプリアンプであることをわからせてくれました。
 スピーカーがSonus Faber Stradivari Homageのせいもあるのでしょうが、気品がありながら、ちょっと着崩した色香と、顔に迫ってくる 吐息の温もり具合までわかるといったら大袈裟かも知れませんが、その見事さに思わず喉を鳴らしてしまうほど。
 抜群の解像度を誇りながら、一音一音の粒立ちも保っていながら、清浄で遙か彼方まで見通せる空気感というのは、他ではなかなか味わえないものだと思います。




フロントにオペレーティング・ポイントセッティングのメーターがあります。
右側のツマミをセンター位置から左に倒すと、メーターの針が左へ、右に倒すと右に移動します。
ただ、微妙にメーターの針が時間が経過すると動いている時があり、1時間くらいして、再度調整し直しが必要な場合があります。


天盤だけみると、J2と違いがわかりません。


J2同様、電源スイッチは背部にあります。これが操作しにくいし、とても熱くなるので、ラックの中には入れておくことが出来ません。
モノラルアンプですが、あまりにも熱くなるので、離して使用した方が良いです。
XLRコネクタには、入力インピーダンス切替用のジャンパーがついています。バランス入力用ではありません。

個人的には、出来ればバランス入力対応にしてもらいたかったと思います。
そして、内部にはスピーカーに応じた出力インピーダンスにするため、トランスの代わりに抵抗器がついていて、大量の熱を発生させています。
エネルギー損失のことを考えたら、E.A.Rのパラピービッチーニにトランスを巻いてもらって、熱放散分の内、少しでも出力に変えることが出来れば、 出力増が可能となるのでは、なんて考えてしまいました。


実際の使用の際には、放熱効果を考え、このようにベースにスパイクを付けてその上に載せると良いようです。

Last update Apr.14.2012