オーディオの世界で、ここに足を踏み入れたが最後、泥沼にはまってしまって、大変なことになるのがケーブル(電線)の世界です。
スピーカーやアンプにお金をつぎ込むのは、目にも見えるし、音質的な変化も大きく、変えただけの価値、あるいは見返りが
あるものです。
一方、「ケーブルでは音の本質は変わらない」とおっしゃる方も居るように、確かにアンプやスピーカーを換えるようには
劇的には変わらないのですが、「あともう一歩欲しい」という時には、本当に拝みたくなる程の効果があったりします。
この「電線病」が高じると電源コンセントや屋内配線、さらには配電盤、果てにはジャズ喫茶メグのオーナー寺島靖国先生のように敷地内に
電柱を建てて、個人用柱上トランスを取り付けることになってしまい、オーディオの奥深さと己の業の深さを実感することでありましょう。
文中に「アメリカで買うと」とあるものは「オーディオ関連リンク集」のオーディオショップ編にも出ている、
その名も「Cable Company」という
ショップで購入した場合を主に示しています。価格は日々変動している上に、ドル・円レートも刻々と変わりますので、多少異なる場合が
あります。
2013年5月のゴールデンウィーク頃より、上記の写真、一番手前のアンプ付きスピーカー、TANNOY Reveal 601aでケーブルを取っ換え
引っ換えやってみてわかったことがあります。
このスピーカー、ケーブルの音を実に素直に表現するというか、その違いを如実に聴かせてくれるのです。
確かにラインケーブルと電源ケーブルしか繋ぐ場所がないので、片方を固定すれば、音の変化に寄与するのは、
ラインケーブルか電源ケーブルしかありません。
その経過は「実験工房」のコーナーで詳しく述べていますが、今回、電源ケーブルの比較試聴を行うにあたり、
インターコネクトケーブルはPRO CABLE社のWeb Pageで見つけて取り寄せた、安くて音の良い、
BELDEN8423 XLR 150cmを主に用いて行っています。
古くてすでに手持ちにない電源ケーブルは、当時使用していた時の感想、となっています。
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Belden Supply Code PS1760/2.0
一番ベーシックな万能型電源ケーブルと言えば、これでした。何しろ、ベルデンの
電源ケーブルは銘機のマランツやマッキントッシュなどにも用いられ、その高音質を影で支えていました。価格も比較的安く、2.0mものですと
国内価格は\7,000でした。
ハイエンド電源ケーブルの先鞭を付けた立役者としても有名ですが、国内代理店の完実電気が輸入しなくなって久しく、残念です。
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JPS Labs THE DIGITAL AC
インターコネクトケーブルのところでもご紹介したこのメーカー、電源ケーブルはとても柔らかく取り回しがし易いので、お奨めかも。デジタル機器、
特にCDプレーヤーに相性が非常に良く、デジタルの良さである解像度が素晴らしくて、音数が増えたように感じてしまいます。それでいて痩せて
ギスギスした音にならないところが素晴らしい。
ちなみにアナログ用にはJPS Labs THE ANALOG ACというのがあります。ケーブルは比較的細めなのですが、しなやかで野太さもあり、プリアンプに
相性が良いように思いました。
いずれも価格は\65,000です。
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Cardas Hexlink 5c Power Cable
インターコネクトケーブルもそうですが、Power Cableも伸びやかな低域と、決して暴れない高域は、他のケーブルでは聴けない見事さです。
クラシック音楽ファンに愛用者が多いというのも頷けます。
ただ、その音が、どうも人工的だと感じる方もいて、確かに、もう少し弾ける部分があっても良い気がします。
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PAD Proteus Power Cord
PADのケーブルは総じて繊細かつ浮遊感の見事なサウンドを提供してくれます。
線がやや細くなるのが難点と言えば難点ですが、透明感があり、美音という意味では最右翼かも知れません。
個人的にはもう少し芯のあるサウンドであった方が良いと思うのですが……。
価格はアメリカから取り寄せると1.5mもので$466.00ですが、国内だと倍はします。
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Aural Symphonics ML-Cubed Gen 2i
かつてニフティーのFAV、リスポジのコーナーで取り上げられたAural Symphonics ML-Cubed Gen 2i、俗称「青蛇」。
何しろ、太いことと高価なことでは、当時、1、2を争う電源ケーブルでした。
音質もその太さと価格だけのことはある、シャープで力強く、繊細さと見事なまでの浮遊感の表現力は、ある意味では究極のレヴェルに
あるかも知れません。国内で買うと安くして貰っても15万円を超える価格がちょっとねぇ。アメリカで買うと$660.00です。
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Aural Symphonics ML-Cubed Ver.3
俗称「新黒蛇」。青蛇の後継機種です。青蛇が高域重視で、低域は少し絞り気味なのに対して、この「新黒蛇」は高域も低域も伸びきっていて、
どうかすると青蛇に馴染んでしまったシステムでは、低域のコントロールに難儀するほど。が、これくらい解像力の素晴らしい
電源ケーブルは当時、他に類を見なかったものです。使い始めは何だか乾いたかさついた音がしますが、次第にしっとり感が出てきます。パワーアンプには
勿論のこと、デジタル系にも抜群の相性で、私はプリアンプを除く他のすべてに黒蛇を使用することになってしまいました。
2000年頃より、オートグラフが入って、しばらくの間、2005年にAETのSINを使用するまでは、後述する「Aural Symphonics Missing Link Blue Note」と
ともに、これを使っていました。
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Aural Symphonics Missing Link Blue Note
俗称「BLUE NOTE」。黒蛇の低域と青蛇の高域を併せ持ち、少し陰りのある鳴り方をします。バランスの上では一番かも知れません。
名前が示すように、古いBLUE NOTE盤のLPをかけるのには一番のケーブルだと思います。
2005年にAETのSINを使用するまで、Aural Symphonics ML-Cubed Ver.3と共に使用していました。
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ESOTERIC 8N Power Cable
8N高純度銅を使用した、国産最強の電源ケーブルの一つです。限定250個発売でした。
歯ごたえのある、ぐんぐん引っ張ってくるような鳴り方は、ジャズ好きにはたまらないでしょう。
ただ、私には、どうもビニールっぽい、ビロ〜ンと響く感じが気になって、購入したものの、すぐ、手放してしまいました。
さすがに原材料の8N銅が無くなったので同じモデルは発売されませんでしたが、2005年6月には7Nのインターコネクトケーブルが
発売、続いて電源ケーブルも発売された模様です。
ちなみにインターコネクトケーブルの7Nは、私は直接聴いてはいませんが、8Nに較べてワイドレンジ、華麗な感じになっているそうです。
それにしても、この8Nケーブルを10本以上揃えた強者が北九州市には居ます。
開いた口が塞がらないというか、よくぞそこまで、と、脱帽です。
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SA Lab HIGH END HOSE3.5
AETの下位ブランドSA Lab(ラボ)のハイエンドホースは、高解像度・ワイドレンジがウリです。多少、高域が乾燥したような音
になる傾向があり、注意が必要です。しかし、比較的廉価でこの水準のケーブルは、なかなか見あたりません。
ちなみにこのケーブル、スピーカーケーブルとしても使用可能です。私はオートグラフ・ミレニアムを現代的に鳴らそうと、
当時、この
ケーブルを使っていました。
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AET SCR Power
SA Lab(ラボ)の上位ブランド、AETは、かつてGAIAシリーズを作って絶賛を博しました。その後継が、このSCRです。
2013年時点ではSCR EVDが出ているので、一つ前のモデルとなってしまいました。
一本、芯の通った、安定した鳴りっぷりは、国産のケーブルとは思えないほど。切り売りで12,000/mでも販売していました。
このケーブルは、スピーカーケーブルにも流用可能です。その際は外皮のシールドは一般的にはアースに落とさず、
フリーにして使用する様です。しかし私はアンプ側をマイナスに落として使用しました。マイナスに落とさない時と較べて、
S/Nが良くなる様に思いましたが、実際はどうだったのでしょうか。
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AET SIN Power
AETの2005年時点での、トップモデルの電源ケーブル/スピーカーケーブルです。SCRよりもワイドレンジで解像度が
グンとupします。ただ、高域が少し細くなる傾向にあり、これは私のアンプがVIOLAのせいもあるかも知れません。SCRよりも
柔らかいので、取り回しはしやすいようです。Sonus FaberのStradivari Homageに連なるメインシステムのCD12やVIOLA Cadenzaaに
使用していました。ただ、S/Nが良く、もう少し芯のある音が欲しくて、Synergistic Absolute Reference AC Master Coupler x2-Seriesも
使用していたりしました。
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Absolute Reference AC Master Coupler x2-Series
シナジースティック・リサーチ社のトップモデル電源ケーブルです。
まるで、VIOLAのパワーアンプのためにあるような電源ケーブルで、ともすればVIOLAは線が細く、
メリハリが乏しくなりやすいのですが、それをカバーするように、しっかり芯のある、メリハリの
ついたサウンドになります。その上で、透明感や色彩感も失わず、高域がシャリつくこともなく、みずみず
しさを保った美しく気品のある高域を奏でてくれます。
鳴らし始めは、高域がキラキラして、少し荒っぽいような印象を与えますが、だんだんと透明感が
増してきて、シャリつきも少なくなってきます。太くて硬めなので、取り回しがちょっと苦労しそうです。
外来ノイズをシャットアウトさせる別電源を付けると、透明感が一段増すとのことですが、試したものの、
その差がよくわかりませんでした。
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AET HHL EVD AC 180cm
ここからが、今回、TANNOYのReveal 601aを用いての比較試聴の成果です。
2013年6月時点での「ハイエンド・ホース」シリーズのトップモデルです。
SA LabはAETに統合され、現在はAETで「ハイエンド・ホース」シリーズも販売しています。
独特の乾いたちょっとパサついたような高域の片鱗はまだありますが、前よりもきめ細かになって、ワイドレンジ。
ビニールっぽい感じの鳴り方はしなくなったようです。
そんなに高額ではなくて、ハイエンドの入り口の音を聴きたいのなら、まず、最初にお奨めしたいケーブルかと思います。
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AET SCR EVD AC 180cm
さらに高額なSINよりも野太く、生き生き鳴ってくれるので、SINよりもこちらの方が好き、とおっしゃる方がいるかも知れません。
透明感ではSINに一歩譲りますが、あのスイングする感じは、ジャズファンにはたまらないかと思います。
以前のEVDになる前よりもきめ細かくなって透明感も増した気がします。
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WATTGATE非メッキplug + A2D SOLUTINS 14AWG AC cable
PRO CABLE社オリジナルの電源ケーブルです。Web上の価格は3mで\9,800、1.5mなら\8,300と、比較的廉価です。
最初はベルデンの一体型ケーブルを探していたのですが、国内では入手が出来ないので、代わりになるものを物色していました。
マリンコ医療用シールド電源ケーブルというのがどれほどのモノかは知りませんが、PRO CABLEがそれを超えるものを
目指して作ったとのこと。1.5mモノで8,300円と比較的廉価であったので、どの程度か興味があって、取り寄せてみました。
拙宅ではWATTAGATEの電源コンセントを使用していて、とても気に入っているので、そちらの方の名前に惹かれたという部分もあります。
そして今回のReveal 601aを使った比較試聴での一番の収穫が、このケーブルです。
音離れが良く、生き生きとした感じがよく出るケーブルです。そういう点では、現在はAETブランドになってしまいましたが、ハイエンドホースシリーズ
に似た部分もあります。しかしハイエンドホースのような荒さがなく、緻密です。高域にちょっと独特の明るさがあって、若干、好き嫌いが
分かれるかも知れません。
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AET Evidence AC 120cm
AETの、そして世界最高峰の電源ケーブルです。
インターコネクト・ケーブルの項でも書きましたが、エージングは十分行ってから判断して下さい。最低、一週間は鳴らし込んで下さい。
もし、それでも良く鳴らない、あるいはお気に召さないようでしたら、購入価格の半額ほどでよろしければ喜んでお引き取りしますので、ご連絡下さい。(笑)
スピーカーケーブルやインターコネクトケーブルは2本使用しますが、電源は1本で良かったりします。
費用対効果を考えるのなら、まずは電源ケーブルを換えてみるのが一番かもしれません。
透明感、伸びやかさ等、久々に文句のつけようがないケーブルです。力感もありながら、透明感を出すなんて、なかなか真似が出来るものではありません。
ただ、TANNOY Reveal 601aに使用すると、WATTGATE非メッキプラグ+A2D SOLUTINS 14AWGシールド電源ケーブルに較べて情報量が多い分、スピーカーの
分解能が追いついていかず、入力された音、全部を鳴らそうとして、低域に少しモッコリ感が出たり、音像がちょっと大きめになってしまう
部分があります。
写真撮影のテクニックで言うところの、引き算が下手というか、引き算をしようとせず、全部出そうとするケーブルなので、
うまくまとめ切れない恨みがあります。
ハイエンドのアンプやDS等に組み合わせてやらないと、このケーブルの真価が発揮出来ないのかも知れません。
でも、このケーブルの性格を知ってうまく使えば、どんなケーブルをインターコネクトやスピーカーに持ってきても喧嘩せず、
嫌な音を出さない上に、全部のケーブルをAET Evidenceばかりで固めても、耳障りになる部分がないので、安心して使えます。
繋ぐのが高解像度のハイエンド機器ならば、あまりこのケーブルのことを気にしなくても済むので、アンプやスピーカーの
組み合わせに専念できる、というのも利点かも知れません。
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AET Evidence AC(F) 180cm
エスアイエスにお願いしていた、試聴用
AET Evidence AC(F)が2013年10月10日にやってきました。
フルテックの電源プラグFl-28M(R)を、AETの電源プラグの代わりに使用したものです。
ちなみに、アンプ側のインレットプラグはAETオリジナルのままです。
音に関しては、上記オリジナルのEvidence ACに較べてローエンドの骨格がしっかりしてきて、さらにローエンドの伸びが素晴らしい!。
高域もワイドレンジになって、粒立ちが良く、特にそれがシンバルに見事に反映されていて、ジャズ等に非常に相性が良いと思います。
重箱の隅をつつくなら、高域が若干、暴れる感じがある部分があり、透明感がわずかに損なわれる気がしますが、弦楽器が爽やかにユニゾンを響かせる感じが
見事で、聴き方によっては、むしろプラスに働くかと思います。
それにしても、オリジナルでもかなりの情報量と感じたのですが、その上があるとは、驚きを通り越して、呆れてしまいます。
アンプ側のインレットがオリジナルと同じで変更
AETのケーブルのラインナップを考えると、SINの音を、よりワイドレンジ、音の鮮度と立体感を出したのがEvidenceシリーズ。
これはFl-28M(R)に電源プラグ部を変更したEvidence AC(F)もその延長線上で、さらにその路線をハッキリ打ち出した感があります。
インレットプラグのFl-28(R)も交換すればその性格がさらに顕著になるのでしょうが、
たとえばLINN Klimax DSでは背面のインレット部分が狭くて、
なんとFl-28(R)では入らないのです。つまり、オリジナルの薄っぺらい平型でないと駄目なのです。
おそらく、AETの小原氏としては
Fl-28M(R) & Fl-28(R)
ともに交換したかったのかも知れませんが、商品として「使えない」機器があるというのは致命的。
買ったは良いが、使えなければクレームが来ます。たとえ、それを事前に知らせてあった、表示してあったとしても、です。
これでは、メーカーとして、選択の余地はないように思います。
それに、電源プラグだけ変えても、その効果は十分享受出来るので、まずは少しでも良い音を望むのなら、電源プラグから、という考えなのではないでしょうか。
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