■ AETの電源ケーブルのプラグをフルテックに交換してみる ■



エスアイエスにお願いしていた、試聴用 AET Evidence AC(F)が10月10日にやってきました。
フルテックの電源プラグFl-28M(R)を、AETの電源プラグの代わりに使用したものです。
ちなみに、アンプ側のインレットプラグはAETオリジナルのままです。

音に関してはローエンドの骨格がしっかりしてきて、伸びもあります。特に低域方向の改善が素晴らしく、伸びやかな低域を聴かせてくれます。 高域もワイドレンジになって、粒立ちが良く、特にそれがシンバルに見事に反映されていて、ジャズ等に非常に相性が良いと思います。
重箱の隅をつつくなら、高域が若干、暴れる感じがある部分があり、透明感がわずかに損なわれる気がしますが、弦楽器が爽やかにユニゾンを響かせる感じが 見事で、聴き方によっては、むしろプラスに働くかと思います。

フルテックの電源プラグにはFl-50M(R)という、ハウジング部はステンレス合金からの削り出し、外側を カーボンファイバーで仕上げた、最高級フラッグシックモデルをうたう、上物があります。
また、アンプ側のインレットプラグもFl-28(R)がセットで発売されており、 両方とも交換したらどうなるのだろう、他の、例えばSCRで電源プラグとインレットプラグを交換したら? と興味がわきました。

そこで11月9日の午後から、第二種電気工事士の資格を持ったプロの友人に頼みこんで(当日の晩飯1回分とニコンD4カメラ貸し出し、 「最善は尽くすが、何が起きても、元より音が悪くなっても、恨みっこなし」という条件と引き替えに)、

1) Evidence + Fl-28M(R)

Evidence ACの電源プラグ(壁コンセント側のプラグ)をFurutech Fl-28M(R)に交換したもの。上の写真のEvidence AC(F)と同等品です。
2) Evidence + Fl-28(R)

Evidence ACのインレットプラグ(アンプ側のプラグ)をFurutech Fl-28(R)に交換したもの。
3) Evidence + Fl-28M(R) & 28(R)

Evidence ACの電源&インレットプラグ、つまり両方ともFurutech Fl-28M(R)Fl-28(R)に交換したもの。

4) Evidence + Fl-50M(R)

Evidence ACの電源プラグ(壁コンセント側のプラグ)をFurutech Fl-50M(R)に交換したもの。
5) Evidence + Fl-50M(R) & 50(R)

Evidence ACの電源プラグとインレットプラグ両方をFurutech Fl-50M(R)Fl-50(R)に交換したもの。

6) SCR + Fl-28M(R) & 28(R)

SCR ACの電源プラグとインレットプラグ両方をFurutech Fl-28M(R)Fl-28(R)に交換したもの。
7) HIN + Fl-28M(R) & 28(R)

HIN AC EVD(4芯タイプ)の電源&インレットプラグをFurutech Fl-28M(R)Fl-28(R)に交換したもの。
8) HHL + Fl-28M(R) & 28(R)

HHL AC EVD(2芯タイプ)の電源&インレットプラグをFurutech Fl-28M(R)Fl-28(R)に交換したもの

を、作ってもらいました。ちなみにEvidence ACのケーブルの大半、14本は「5) Evidence + Fl-50M(R) & 50(R)」のタイプにしてあります。
なお、これは改造にあたるので、メーカー側の保証が受けられなくなることはもちろん、電気用品安全法(PSE)からは外れてしまいますので、何が起こっても、それはあくまで自己責任、ということになってしまいます。
私の場合は専門家にお願いしたのでトラブルもなく、オーディオ機器につなぐことが出来ましたが、熟練者による細かな手作業が必要なので、素人がそう簡単に手を出せるものではありません。

AETのように、電気用品安全法(PSE)に準じたラグ板などにケーブルを圧着、固定したものではなく、写真のように、ねじ固定の固定板の間にケーブルを挿入する作業は、 ほとんどが4芯、3.0スケアなので非常に困難で、さしもの友人も難儀していましたが、後半では慣れてきたのか、ねじを中心に左右に1芯ずつ、アースは1芯だけですが、私が目で追うスピードより速く、 尖端を1cmストリップしたケーブルを挿入、一気に作業が進行していました。
ちなみに、写真はイントレットプラグのFl-50(R)で、左側のプラグ部の3カ所の穴にケーブルを入れなければなりません。左側のプラグ部の右上がネジを開けた状態。右下がネジを締めた状態で、実に狭い!

感心したのが、電源プラグやインレットプラグを綺麗に最初に分解して、1組ずつ、Furutech Fl-50M(R)Fl-50(R)が入っていた箱に小分けし、新聞紙を広げた作業テーブルの右上には 工具を並べ、プラグの外カバーケースをケーブルに通す時には、カバーケースの背部を傷めないように、熱収縮チューブの端材でケーブルの尖端を覆って通したり、 そういった段取りがキチンとしていて、作業が始まったら流れるように進んでいく様に、惚れ惚れしてしまいました。

私がスピーカーケーブルを加工した時など、作業テーブルの新聞紙の上はごった返していましたが、プロは切断して捨てるものは小箱にきちんと入れていきながらの 作業で、捨てるのも楽ですが、作業テーブル上が本当に綺麗なのです。
そして、工具を置く場所も決まっていて、ここまでとなると、単に電気工事士の資格云々以上のものがあるように思いました。

閑話休題。
まず、注意しないといけないのが、ロジウムメッキを施した電源プラグやインレットプラグは、無メッキや金メッキに較べてエージングが長くかかる、と言うこと。
特にカーボンを使用したFl50M(R) & Fl50(R)では、微少な音の変化もわかってしまうため、本当に落ち着いた、変化がなくなったと感じるまで、 Fl-28M(R)などより、さらに時間がかかるようです。

鳴らしはじめの数十分は、どんどん音が変化し、一瞬、凄いローエンドと高域の色艶を聴かせてくれるのですが、あっという間に音が沈んでいきます。
これはフルテックのすべての電源プラグ、インレットプラグに共通しています。
そして半日くらい鳴らしていると、次第に音の籠もりが取れて来て、音が浮き上がってきます。
特に高域のシンバルの響きがドンシャリ気味になり、エネルギー感が強く、テンションが常にかかったような、帯域が狭くて伸びやかさに欠けた音になってきます。
この段階で音を聴いたら、「AETもフルテックも大したことないな」で、切り捨てられてしまうことでしょう。
丸2日目まではこんな感じが続き、うんざりしてきます。
丸3日くらい過ぎると、違いが出てきます。

Fl-50M(R)Fl-50(R)で作った分は、音の籠りが次第に取れてきて、 霧が晴れた来たような透明感に加え、ドンシャリ気味だった音の芯の部分がハッキリしてきて、音の芯に付随する余韻の部分の色艶が出てきます。
音の一つ一つの粒立ちが良くなり、音の本体と響き、残響部分が聴き分けられるほどにまでなるのは最終的には一週間近くかかりますが、 それでもその片鱗を伺うことが出来て、「おっ、こいつは凄い」という感じになってきます。

しかし欠点もあります。Fl-28M(R)Fl-28(R)に較べると、音の粒立ちは良いのですが、 最終段階でも音が若干硬質で、接続機器の音の特徴をさらけ出してしまう傾向にあり、 OCTAVE HP500SE/SV --> First Watt SIT-1 --> Sonus Faber Stradivari Homageの組み合わせでは、超高域までフラットな周波数特性で美音ながら、若干の ローエンドのエネルギー感不足が露呈してしまいましたし、VIOLA SOLO --> VIOLA Legacy --> DD66000では 強烈なエネルギー感とパルシブなエッジが立った音はさすがというほかありませんが、逆にSonus Faber Stradivari Homageほど超高域や超低域は 出ていないことがバレてしまいます。

加えて、若干、高域ある周波数帯域のエネルギーが強まる感じで、どうかすると女性ボーカルのサ行の音が強まる時がありますが、これが逆に弦楽器、特にヴァイオリンの ユニゾン等では、爽やかに吹き抜ける一陣の風、そう、かつてタンノイのオートグラフでしか聴くことが出来なかったあの音を、久しぶりに耳にしたのは、ちょっと驚きでした。
これはなかなか容易に実現できる音ではないので、クラシック音楽ファンにとって、これは儲けもの、のような音なのですが、女性ボーカルに重点を置く方には、 少々、気になる部分でしょう。

最初はSonus Faber Stradivari Homageの特性が出たかと思ったのですが、DD66000の方でもSonus Faber Stradivari Homageほどではないものの、若干高域にエネルギー感が集中 する部分があって、特にジャズのシンバルではそれが見事に生きてくるのですが、ボーカルではサ行が少し強めの気がします。これは全体として変化がなくなって落ち着く10日経過後も、 その傾向は残ってしまいます。ひょっとしたら、AET Evidenceの特性が表面化したせいなのかも知れません。
DD66000では低域のブーミー気味が改善され、スパッとキレの良い筋肉質のバスドラムやベースの音になります。 しかし低域の伸びやかさがなくなり、実際は出ていても、今まで出ていたと思った超低域の量感が少なくなる感じがして、少し乾いた呆気ない音に感じてしまう部分もあったりします。

丸4日目くらいになると、特に情報量の増加、細かな音まで聴き分けられるようになり、透明感がますます出てきます。
Fl-28M(R)Fl-28(R)では、丸4日も経つと、 音の変化がほとんどなくなり、固定化しますが、 Fl-50M(R)Fl-50(R)の方は、じわじわと、 霧が晴れていくようにゆっくり透明度が増し、しなやかさが加わっていく感じで、本当に連続通電で一週間くらいしないと、本来の姿が浮かび上がって来ないのかも知れません。
比較的大電流が流れるパワーアンプはエージングが早いようですが、小電流のプリアンプやLINN DS等では仕上がりが遅いようで、パワーアンプでエージングを 行って、その後プリに繋げてみたら、音の改善スピードが早いように思います。

基本的にはFl-50M(R)Fl-50(R)で換装したEvidenceは、 超高解像度で、贅肉をそぎ落として引き締まり、実にシャープ。ある意味、モニター的です。その分、電源ケーブルを接続する機器の性格をモロに出してしまいます。
ですから、一番違いがわかるシステムは、写真にはありませんが、LINN Renew DS --> First Watt SIT-1 --> B&W Sigunature Diamond のラインナップの、First Watt SIT-1の 電源に使用した時だったりします。

それにしても透明感が抜群で、音数の多いこと多いこと。さらに、全部の楽器がフルパワーで鳴っている時でも、今まで楽器の音に隠れてわからなかった演奏者の息づかいが きちんと聴きわけられるのは驚異的です。
ただ、ここまで来ると、とある試聴者の言葉を借りるなら「写真じゃ無いが、音を引き算して整理してしまいたくなる」という気になってしまいます。
また、全部の音を余さず出そうとするので、「常に力が込められていて、音に余裕がないように聴こえる」と評する方もいらっしゃいます。
私としては、そこまでは感じないのですが、確かにテンションがかかった音で、一音たりともゆるがせにせず、磨き上げられた音であり、こういったあたりが好みの分かれ目、 になるのではないかと思います。

対して、Furutech Fl-28M(R)Fl-28(R)で作った分は、音の籠りが取れてくると、 伸びやかさが顕著になってきます。
音の粒立ちもそこそこあるのですが、やはり最終段階のFl-50M(R)Fl-50(R)の 透明感には敵いません。
しかしオリジナルの電気用品安全法(PSE)に準じたラグ板などにケーブルを圧着、固定したものに較べると寸詰まり感はなく、時間と共に音の硬さが取れてきて、 ワイドレンジでしなやか、あまり接続機器のアラを出さない、優等生タイプの音、に変化してきます。
ただ、それでもオリジナルに較べたら音の粒立ちが良く、とてもワイドレンジです。
Fl-50M(R)Fl-50(R)と比較、あるいは聴いたことがなければ、 「今までで一番の音」と思ってしまうくらいです。

AETのケーブルのラインナップを考えると、SINの音を、よりワイドレンジ、音の鮮度と立体感を出したのがEvidenceシリーズ。
これはFl-28M(R)に電源プラグ部を変更したEvidence AC(F)もその延長線上で、さらにその路線をハッキリ打ち出した感があります。
Fl-28M(R)Fl-28(R)ではその性格がさらに顕著になるのですが、 たとえばLINN Klimax DSでは背面のインレット部分が狭くて、 なんとFl-28(R)では入らないのです。つまり、オリジナルの薄っぺらい平型でないと駄目なのです。

おそらく、AETの小原氏としては Fl-28M(R)Fl-28(R) ともに交換したかったのかも知れませんが、商品として「使えない」機器があるというのは致命的。
買ったは良いが、使えなければクレームが来ます。たとえ、それを事前に知らせてあった、表示してあったとしても、です。
これでは、メーカーとして、選択の余地はないように思います。
それに、電源プラグだけ変えても、その効果は十分享受出来るので、まずは少しでも良い音を望むのなら、電源プラグから、という考えなのではないでしょうか。
個人的には選択肢を用意していただき、最終的にはFurutech Fl-50(R)の良い部分を踏襲した、 AET独自の平型、カーボンタイプのインレットプラグを使用した製品を用意してもらえたらな、と希望します。

Fl-50M(R)の電源プラグを使用した製品では、音のクリアさが際立ち、やや硬めの音になることから、 AET Evidence本来の伸びやかさの部分と 求める音の方向性がやや異なっていて、Evidenceらしさが後退してしまうのを小原氏が嫌ったのかもしれません。

しかし、ケーブル本体の出来映えはEvidenceが今のところ他社と比較して抜きん出ていますので、フルテックのFl-50M(R)と、 Fl-50(R)を導入すれば、真の意味での最高峰のケーブルになるのではないかと思っています。
特に拙宅のFirst Watt SIT-1 --> Sonus Faber Stradivari Homageのラインナップのような、超高解像度システムでは存分にその性能を発揮出来ると思います。
ですから、せめて受注生産分だけでも、選択肢としてフルテックの電源プラグ、インレットプラグを用意して欲しいと切に願う次第です。

そうそう、書き忘れるところでした。
6)SCR ACのプラグとインレットプラグをFurutech Fl-28M(R) & Furutech Fl-28(R) に交換したもの
は、コストパフォーマンスに優れ、オリジナルのSCRでは不満だった音の伸びやかさが加わり、上位のSIN ACとは別の魅力あるケーブルとして、試聴会では けっこう評判が良かったです。

8)HHL + Fl-28M(R) & 28(R)や7) HIN + Fl-28M(R) & 28(R)も、ハイエンド・ホースシリーズ特有の乾いた中高域のパサツキ感が少なくなって、ローエンドの伸びも良く、 比較的作りやすいとのことなので、ケーブルとプラグを買ってきて自分で作ってみる、というのも良いかも知れません。
SCRに較べてドンシャリ気味で緻密さに関してはさすがに及ばないものの、開放感あふれる鳴りっぷりは非常に魅力的で、これはこれで「有り」だと思います。



さて、11月9日夜からEvidence ACの電源プラグとインレットプラグ両方をFurutech Fl-50M(R)Fl-50(R)に交換したものをはじめに、拙宅の電源ケーブルは大幅に変更となり、当初、 切れ味と透明感、解像度が抜群で、高域のエネルギー感の集中が気になっていましたが、先週あたり、つまり2週間経過したあたりから高域のエネルギーが 集中していた部分が次第にほぐれてきて細かいところまで見通せるようになり、硬さも取れ、しなやかさが出てきて、抜群の分解能を示すようになってきました。

加えて、ローエンドの伸びが異常なまで凄みを増してきて、Sonus Faber Stradivari Homageの低域の量感不足は解消されたばかりか、JBLDD66000の低域の伸びは、 Sonus Faber Stradivari Homageには及ばないものの、それを感じさせない量感と伸びやかさを感じさせるようにもなってきています。
12月に入って、空気の乾燥によりエンクロージャーの響きが改善、コーン紙の湿気も取れて、スピーカー本体としても、ますます反応が良くなってきたのも、 プラスに働いている様に思います。

ひょっとしたら、Fl-50M(R) と、 Fl-50(R) の真価を享受するには、一ヶ月くらいのエージングが必要なのかもしれません。
そう言えばこの3週間近く、現在の電源ケーブルを含む接続ケーブルは、First Watt SIT-1への入力が、Klimax DSからダイレクトのRCAピンと、OCTAVE HP500SE/LEからの RCAピンに差し替えるくらいで、電源ケーブルはほとんど動かしていません。
しかも、最初は電気を流しっぱなしでしたが、最近は、寝ている間はoffにすることも多く、単に電気を流しっぱなしにするより、いったん完全に冷えるまで 時間を置いて、再度、電気を流してやった方が、エージングがいっそう進むような気がします。

それにしても、DD66000、これだけ低域がガンガン出ていても、バックの演奏者の息づかいまで鮮明に描き出すことが出来るなんて、想像もしませんでした。
ぜんぜんドンシャリにならないのも信じがたいことです。
シンバルも色彩感豊かに出ていますし、壁コンセントまでは一般家庭と同じ、2.0mmVVF(Vinyl insulated Vinyl sheathed Flat-type cable)単線ケーブルで来ていて、 そこからアンプまでの間を換えるだけで、どうしてこうも音が違ってくるのでしょうか。不思議でなりません。


Last update Dec.4.2013