■ インフルエンザの話 ■

今年(1999年)のインフルエンザは大きく2種類ありまして、熱が上がるタイプは 香港A型で、薬などで熱を下げ過ぎないのが早く治すコツの様です。

最初の1〜3日、ポーンと39℃くらいに熱が上がり、頭痛、関節痛、筋肉痛が出 て来るので、ついつい解熱鎮痛剤を多めに使いたくなってしまいますが、例えば 38℃から36℃まで下げると、ウイルスをたたくための免疫能が、一桁、場合によ っては二桁以上低下してしまいますし、ウイルス自体が熱に弱いですから、せっ かく身体の防衛反応で発熱しているのを強制的に抑え込んでしまいますと、気道 粘膜に付いたウイルスの侵入&繁殖を許してしまうことになります。

特に気道粘膜は乾燥と温度低下に弱く、粘膜の線毛運動によってウイルス等を体 外に排出しようとする作用が、冬場は一気に低下します。
解熱鎮痛剤の使用はその線毛運動をさらに抑えてしまいますから、身体にとって は水際の防衛反応も極度に低下してしまって、「風邪薬を飲んだら、かえって具 合が悪くなった」というような状況を招くこともあります。

よく、雪が降るとインフルエンザは一段落する、なんていうことを言いますが、 これは降雪&降雨により湿度が上がってくれることが最大の理由です。
他にも乾燥状態が改善することにより、ウイルスの拡散度が低下することも挙げ られましょう。
関東地方は昨年末から降水量が極めて少なく、インフルエンザを大流行させてい る要因の一つとなっているわけです。

一見、身体の強そうなスポーツ選手がインフルエンザに案外かかりやすかったり するのは、スポーツやそのトレーニングをするのに近年は団体で行うことが多く、 他の団体との交流も多かったりしますので、インフルエンザウイルスを招き入れ やすい環境にあるのも一因ですが、トレーニングなどで身体にストレスがかかっ たり、心拍数が上がるような、つまり血行動態を変えるような運動をしますと末 梢循環が悪くなり、過呼吸による気道乾燥も加わって、気道粘膜の線毛運動の低 下を来すことが原因となっているからです。

今年のインフルエンザですと、だいたい4〜5日目から熱は下がってきます。
代わりに3日目くらいから咳嗽や鼻水が出てきます。
これはウイルスが気道粘膜や鼻粘膜に侵入、繁殖してきた証拠で、生体反応の一 環としてこの症状が起こっているわけで、むやみやたらと咳止めなどを使用する と、体内から外へウイルスや最近を出そうとする作用が止められてしまうので、 症状がさらに悪化する場合があります。

ただ、夜も眠れないほどの咳嗽や鼻水の場合は、睡眠不足になって治りも悪くな るので、対症療法として、咳止めなどを使用する場合もありますが、使いすぎに ご注意下さい。

一週間程度してウイルスに対する抗体が体内で作られて一気に治っていけば良い のですが、熱が下がったからといって、ここで無理をして過労や睡眠不足などが 身体に加わりますと、身体の免疫能が落ちてしまうことに加えて、インフルエン ザで痛めた気道粘膜の部分に二次感染を起こして、気管支炎や肺炎など重篤な状 態になってしまうことがあります。

そういう意味でも、だいたい一週間を超えて長期化しつつある感冒症状の場合に は、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌等の、いわゆる一般市中細菌感染を予防する という観点から、予防的に抗生剤などの投与をすることがあります。
どの種類の抗生剤が良いかは判断が難しいのですが、菌交代現症を避ける意味か ら、あえて殺菌作用が少なく、静菌作用が中心のミノマイシンなどを使用して、 体内の細菌バランスを保ちながら細菌感染予防をするのも、一つの方法と言えま す。

青壮年に多い肺炎球菌はペニシリン系が有効ですので、ペニシリン系の薬を出す 場合もありますが、「ペニシリン・ショック」などの副作用やアレルギーを嫌っ て、そういったことの少ないセフェム系の薬剤を第一選択にしている医師が最近 は多いようです。あとは耐性菌の問題も絡んできていて、なかなか一筋縄ではい かない、と言うのが現状です。

うがい、手洗い、マスクはインフルエンザ対策の三種の神器と言われていますが、 うがいをするとウイルスや細菌除去の作用の他、線毛運動を促進させることも知 られており、風邪の予防になると言うのも頷けます。
手指からの細菌&ウイルス感染は意外に多く、直接接触しなくても間接的に伝播 することが知られていますので、手洗は非常に有効です。
マスクはウイルスの大きさからして無効ではないかと言われていますが、くしゃ みや咳嗽により飛沫感染することを考えますと、完全にウイルス単体で飛んでい くものもありますが、飛沫成分と共に飛散しますので、マスクで予防できる部分 もある上、気道粘膜の乾燥を防ぎますので、マスクはそれなりに有効と現在では 考えられています。

また、マスクを使用することにより、患者側から健常者への感染を抑制すること は勿論、何度も言うように気道粘膜の乾燥を防ぐことも出来ますので、すでにイ ンフルエンザにかかった方にも有効です。

それでは、インフルエンザにかかってしまった場合はどうするか、ですが、昔か ら言われている、「一に睡眠、二に栄養……」は確かにその通りで、十分に睡眠 や栄養(特にタンパクとビタミン)をとって免疫能をupさせ、発熱による消耗を防 ぐと共に、活性酸素による細胞障害を防止する(ビタミンCなどにその作用があり ます。今流行の「カテキン」にもこの作用があります)ことが快復の助けになりま す。

それから、発熱時には脱水になりやすいので、ポカリスエットやアクエリアス等、 もちろんお茶などでも構いません(お茶にはビタミンCが入っています)、水分を ちゃんと取ることも必要です。

風邪をひいたときには「おかゆ」が良いということに関しては、別に「おかゆ」 でなくても、消化吸収の良い、胃腸に負担をかけない食事でかつ水分も十分に補 給出来るものなら良く、タンパクとビタミンにも配慮していただけると、更に良 いかと思われます。

入浴の可否については、アメリカでは入浴を薦めているところもあるのですが、 これはアメリカ人はあまり入浴をせず、シャワー浴で簡単に済ませているため、 汗や皮脂等により細菌が繁殖しやすい上、シャワー後は皮膚温が下がって末梢循 環が落ちて、気道粘膜などの防御反応の低下がみられるからで、それを予防する 意味からも、入浴することで十分な保温とリラクゼーションにより、免疫能改善 も意図しているのですが、日本人の場合はこれを鵜呑みにすると良くない様で、 セントラルヒーティング等、暖房が行き届いているアメリカとは異なり、入るお 風呂の湯の温度が高く室温が低い日本は、「湯冷め」しやすい条件がそろってい ます。

加えて発熱時には汗をかきやすく、体温調節がうまくいかないことがあり、入浴 後の気化熱による体温変化や急激な循環動態の変化に身体がついていけず、症状 が悪化することがありますので、やはり熱がある間は入浴はひかえた方が無難か と思います。

初出 1999.2.3.
Last update Jan.19.2007

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