■ 「豊の国の姫巫女たち」刊行のご挨拶 ■



 『古事記』が世に出て、今年でちょうど1,300年。
 しかし、未だ邪馬台国については記録や伝承は国内では発見されておらず、相も変わらず九州説、 畿内説の間で綱引きが行われています。
 とある席で私が「邪馬台国は九州でも、卑弥呼の墓は大和というのは、有りかも」と言ったところ、 「理屈が通るように説明してみろ」と詰め寄られ、その場ではうまく説明することができず、 ならば、と思い立って書いてみたのが、この『豊の国の姫巫女たち』という小説です。

 遺跡や古墳の発掘を行いつつ、さまざまな文献を引用、論陣を張るのが正統派なのでしょうが、 考古学は門外漢に加え、時間的余裕がないうえに、『日本書紀』より物語調の『古事記』が好きな私は、 正確さより、時代の空気のようなものを大切にしたいと思い、あえて小説のかたちを選んで書いてみた次第です。

 2004年の正月に宇佐神宮への初詣の帰りに、たまたま立ち寄った中津の薦神社と、大分県境の山国川河口近く、 福岡県上毛町(旧・新吉富村)の牛頭天王公園のことを、とある地方の業界誌に載せるため、宇佐神宮関連の 資料集めを始めて8年あまり。

 前・薦神社宮司で、後に第79代宇佐神宮宮司となる、故・池永公比古氏には2004年6月6日に薦神社を訪れた際、 薦神社や宇佐神宮について詳細にわたってお教えいただき、おかげで無事、写真と文章を載せることができました。
 しかし「いつか、薦神社と宇佐神宮のことを書いて本にしてみたいですね」と申し上げていたのに、 ついに氏の生前に果たすことができず、後れ馳せながらこういうかたちで上梓することとなり、 まずは池永公比古氏の御霊前に捧げたいと思います。

 当初は文芸誌に投稿するつもりで、手元にある資料を小説形式に書き改めてみましたが、 あまり皆が知らない古代のことなので、注釈や参考文献も付ける必要があり、純粋な小説でもなく 随筆でもない規格外ということで、ボツに。

 ところがたまたま拙宅に遊びに来ていた友人がパソコンの画面に出ていた原稿を読んで、 「これは面白い。資料としても貴重だ。漫画の原作に使えるかも知れない。 自費でも何でも良いから、出版して世に問うてみるべきだ」と言ってくれたお陰で、このような形で日の目を見ることが出来たのです。

 なお、本書は紀伊國屋書店、三省堂書店、ジュンク堂書店などの大型書店に加え、地域の1,000を超える中小書店でも入手可能です。
 一人でも多くの読者の方々が古代史に興味を持ち、また、邪馬台国論がますます活発になり、いつの日か、邪馬台国が我々の目の前に真の姿を現すことを夢に見つつ、刊行の言葉とさせていただきます。
平成24年3月 吉日

薫風堂本舗主人 楠 薫 拝

初出 2012.3



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Last update Apr.12.2012