■ オルゴールの話 ■


 最近、少々凝っているものがあります。
 それはオルゴールです。
 以前からそれなりに興味はあったのですが、とある親睦旅行で6 月26日、小樽オルゴール堂2号館のアンティークミュージアムに立ち寄った のがきっかけで、どうやら背中を押されてしまったようです。
1796年スイスの時計職人、アントワーヌ・ファーブルが懐中時計に細長い 鉄製の歯を使った演奏装置を考案。これがオルゴールの始まりと言われて います。それまでは1381年頃に考案されたと言われている、教会のカリヨン を自動演奏するシリンダー・システムに端を発し、18世紀頃には比較的大型 なミュージカル時計が主流でした。
 当初オルゴールは時計や宝石箱の付属品として使われていましたが、 1885年にはディスク型オルゴールがドイツのポール・ロッホマンにより考案さ れ、レコードのように容易に曲目を取り替えることが出来るようになり、一世を 風靡しました。
 しかし1895年、エジソンが最初のジュークボックスを製造。1900年には円 盤形のレコードディスクの大量生産が可能となり、アメリカを中心としたオー ディオ産業の興隆により、1920年頃には衰退、次々と廃業していくことになり ます。

 日本にオルゴールに関連した言葉が最初に登場するのは1750年のこと。 和蘭辞典「紅毛訳問答」に「ヲルゴルナ」とあり、これは本来「オルガン」のこと だったそうですが、「音の出る箱型機械」と解され、これが日本で言うところの 「オルゴール」の語源となってしまった様です。
 そういう訳で「オルゴール」は実は日本語なので、海外では「Music box」と 言わなければ通じません。もっとも、後述する三協精機がオルゴールの名前 を世界に広めてくれたお陰で、現在では例えばロンドンだと、「オルゴール」 と言うと、「Oh,music box!」と言って、オルゴールを出してくれるそうです。
 その後、1862年に「横浜開港見聞誌」でシリンダー型オルゴールの絵と、 「ヲルゴル」の名前が紹介されます。1868年ですから、日本が明治維新を迎 える前の話です。1901年には「東京風俗誌」にシリンダー型オルゴールを 「オルゴル」と紹介、1903年には「東京玩具商報」には「オルゴール」と紹介さ れ、この名称が一般的に使われるようになります。

 有名なオルゴール・メーカーとしては、海外ではReuge(リュージュ)社をまず挙げなく てはならないでしょう。1856年、17弁機械式ミュージカル・ムーブメント内蔵 の、からくり付きポケットウォッチを発売。からくり人形オルゴール(automata(オートマタ)) 付き時計の分野で活躍します。
 1881年設立のThorens(トーレンス)社は、小型と中型のディスク・オルゴールが有名で、 小型で比較的安価なシリンダー・オルゴールも製造していました。
 現在では世界のオルゴール販売台数の約6割強のシェアを持つ日本の三 協精機(SANKYO)は第二次世界大戦後の1946年に設立されました。
 1948年第一号機を試作したものの、同年12月に東京オルゴール株式会 社が国産第一号を完成、発表。先を越された形になりましたが、アメリカの玩 具メーカー、「フィッシャープライス」のオルゴールを全て手がけることになり、 一躍オルゴール業界でその名を轟かせます。
 1920年代以降、オーディオ業界に押されて衰退の一途を辿っていたオル ゴールですが、第二次大戦後、駐留軍の米兵が帰国する際、オルゴール付 宝石箱をお土産として持ち帰ったのがきっかけで特需が起き、Thorens(トーレンス)や Reuge(リュージュ)も息を吹き返します。
 戦後の世界のオルゴールはReuge(リュージュ)、Thorens(トーレンス)、三協精機で市場をほぼ独 占することになります。

 Thorens(トーレンス)は1985年までオルゴールを作り続け、その後は、ディスク・オルゴ ールとボールベアリング、そして軸受けの技術を活かして、レコードプレーヤ ー・メーカーとして、現在も高級オーディオの分野で活躍しています。
Reuge(リュージュ)はThorens(トーレンス)がオルゴール業界から撤退した後、Thorens(トーレンス)の工場を買収 して、引き続き「Reuge(リュージュ)」ブランドでThorens(トーレンス)時代の製品を作り続けていました が、現在では中〜大型で弁数の多い高級シリンダー・オルゴールを中心に 製造しています。オメガ、ピアジェ、グッチなどを世界屈指のブランドに仕立 て上げたアルド・マガダ氏が新しいオーナーに就任してからは、実に精力的 に、まるで原点に戻ったかのような勢いで、十八番(おはこ)の小鳥が体を動かしなが ら囀るシンギング・バードや、オルゴール付きポケット・ウォッチ、そしてちょっ と高価ですが、からくり時計(388,500円)も復活、入手可能となりました。
三協精機は、かつてのドイツの名門、Ludwig&Co.の名作「Orpheus(オルフェウス)」の名を 冠した72弁シリンダータイプを中心とする「オルフェウス」シリーズを発売。
 Reuge(リュージュ)が72弁のモデルは手作りで量産出来ないのに較べ、三協精機は72 弁のオルフェウスシリーズも含めてすべてのモデルで量産体制を整え、 Reuge(リュージュ)の同程度品のおよそ1/3以下に価格を抑え、安くて質の高い製品を 作り続けています。

 弁数が72弁以上のオルゴールは、音域の広がりと音色の多様性から、音 楽療法に適していると言われています。三協の最高級80弁ディスク・オルゴ ール「Traditional Style 802」は、高さが177.3cmもある、まるで「大きな古時 計」風です。価格は315万円もしますが、5オクターブ6度の音域を誇り、オ ルゴールによる音楽療法の定番で、医療機関を中心に、けっこう売れている そうです。オルゴール療法については、佐伯吉捷(さえきよしかつ)先生のホームページ、 「http://www.musicbox.jp/」に詳細があります。また、健康月刊雑誌「はつら つ元気・7月号」(2004年6月2日発売:芸分社)によると、「耳鳴りや偏頭痛 の解消、肩と首のこり改善、動悸とめまいが解消」 の他、高血圧や糖尿病、 リュウマチの症状改善に効果がある、とのこと。
 レコードによる音楽療法や、クラシック音楽のライブ演奏による音楽療法で も構わない気がしないでもないのですが、オルゴールのちょっと切なく、染み 入るような音色は、確かに独特なのかも知れません。
 さて、小樽で私が手に入れたのは、小さな男女のカップルの人形が「花の ワルツ」でダンスを踊る、「ダンシングドール・カップル1」というモデルです。ス ピンドル軸が回転だけではなく、上下にも動くことで、踊っているかのような 動きを見せてくれます。が、残念なことに、現行の最新モデルのカタログから は姿を消してしまいました。基本的には宝石箱の形をとっていて、蓋を閉め ると人形が横に倒れて箱に収まるという工夫が成されています。
 また、念願だったThorens(トーレンス)のディスク・オルゴールもインターネットのYahoo オークションで手に入れ、現在、置き場所を思案中です。

※参考文献:佐藤潔著オルゴールの歴史(有明書房)、名村義人著アンティ ク・オルゴール物語(新潮社)
初出 2005.9
Last update Jan.4.2007

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