■ 日本酒を美味しく飲む方法 ■


これは私が某所で講演したものの原稿です。

お酒に弱い方というのは、そのほとんどが、二つあるアルコー ルの分解経路の内の通常75%を占める、肝臓のアルコール脱水 素酵素を介する経路がうまく働かないためだと言われています。

ちょっと難しい話になりますが、アルコール脱水素酵素によりエ タノール(CH3-CH2OH)は、アセトアルデヒド(CH3-CH=O) になります。で、これが脱水素酵素により酢酸(CH3-COOH)にな って、さらに代謝されてしまうのですが、このアセトアルデヒド 脱水素酵素が少ない人が日本人(モンゴル系)には多く、アセト アルデヒドが貯まると頭痛がしたり、気持ち悪くなったりします。

じゃあ、お酒に強くなるにはどうすればよいかというと、残りの 25%を占める別のアルコールの代謝経路を頑張らせてやれば良い、 ということになります。

この代謝経路はMEOS(microsomal ethanol oxidizing system) と呼ばれる経路で、なんと、鍛えれば鍛えるほど、活性化するとい うシロモノ。つまり「飲めば飲むほど強くなる」というわけです。

毎日少しずつでも良いですから、アルコールを飲むようにしましょう、 なんて、言うのは簡単ですが、実行するのは、なかなか難しいもの です。先立つものも必要ですし……。
ましてや、あまり飲めない方など、最初はほんのコップ半分でも、 二日酔になってしまうくらいですから、根性がいるかと思います。

でも、不思議とみんなとワイワイ楽しみながら飲んでいると、意外 に気持ち悪くならなかったり、二日酔も軽くて済むことがあります。
これって、もちろん精神的なこともあるでしょうが、体が調子よくて、 リラックスしている状態だと、酵素を作る機能が活発になり、代謝機 能が上がっているからだ、と言う人もいます。

と言うことは、「少しくらい気持ち悪くなっても吐いても気にせず、 気の合う仲間とワイワイ楽しく、毎日のように飲みましょう」てなこ とになるのでしょうか。

もちろん、血液の中のアルコールの濃度を低くしてやることも大切な ことです。

通常、アルコールの濃度が100mg/dlを超えるとほろ酔い状態になり、 250mg/dl以上では記銘力低下(何をしたか覚えていない)状態になっ ちゃいます。アルコールに弱い人は、この1/10でも気持ち悪くなると言 います。

アルコールの血中濃度を低く抑える方法としては、以下のようなものが あります。

(1)吸収を遅くして、一気に血中濃度が上がらないようにする
  その代表が、脂肪を多量に摂取して吸収を遅くすると言う方法ですが、   アルコールだけでなく、他の蛋白質や炭水化物も吸収が遅くなり、消化  不良を 起こして気持ち悪くなる人がいることは、知っておいた方が良い  と思います。

  バター作戦は私も実行したことがありますが、あまり気持ちの良いもの  では ありません。
  ちなみに私の友人は、冬場にアイスクリーム作戦を決行して多少は成果  はあったものの、翌日下痢に悩まされました。

 アルコールを20%吸収すると言われている胃で吸収を遅くしても、残り  80%は、その先の小腸で吸収されてしまうので、ある程度量を飲んで  まったら、これは諦めるしかありません。

(2)胃の中のアルコールを希釈してしまう
  つまり水を多量に飲み、いっぱいモノを食べて、アルコールが吸収され  ても、 血液のアルコール濃度は、見かけ上、低く抑えてしまおうという  方法です。この方法の欠点は、おしっこが近くなると言うこと。
 アルコールを摂取すれば、利尿効果で、ただでさえおトイレが近くなるも  の。それに輪をかけておトイレが近くなるのが難点。
 あまり女性向きとは言えません。

 ちなみに水分と脂肪、蛋白質を効率よく摂取する方法としてお薦めなのが  牛乳です。ある程度の量(300ml程度)を飲むと、胃の中を満たして粘膜を  保護する作用もあったりします。
 でも、中には牛乳の成分である乳糖が合わないために、下痢になったりす  る方もいます。また、脂肪の取り過ぎも下痢の原因になりますので、ご注  意下さい。

(3)胃や小腸で、アルコールの吸収量を減らす
 この代表的なのが、下剤です。
 市販のコーラック等では腸の動きが激しくなって、お腹が痛くなる人がい  ます。で、お薦めなのが「硫化マグネシウム」もしくは「クエン酸マグネ  シウム」です。 医師がよく処方してくれる、目薬みたいなお薬、「ラキソ  ベロン」は、大腸を動かす下剤ですので、便秘には良く効きますが、アルコ  ールの吸収を減らすと言う意味では、お薦めできません。

 が、まあ、女性の場合、お酒の席で大きい方のトイレに立つこともなかな  か出来ませんので、下剤は使わずに済めば、それにこしたことはないと思  います。
 なお、牛乳がお酒の二日酔防止に良いと言うのは、アルコールを多飲した  翌日に体に必要な、ビタミンや蛋白質を多く含んでいるからですが、実は  牛乳の中の乳糖が合わない人がいて下痢気味になり、下剤の代わりをして  いるのだ、という説もあります。

(4)柿や豆類を食べる
 これは、柿や豆類に含まれているシステインがアセトアルデヒドの代謝を  促進させる作用があることを利用した方法ですが、酔って頭が痛くなるほ  どまで飲んだ場合には、かなりの量のアセトアルデヒドが体内を循環して  いますので、それほど即効性があるとは言えません。
 実際に試してみましたが、飲んだ後では消化器系がやられてしまっていて  嘔吐する場合があり、むしろ飲む前や飲みながら豆類や柿を食べる方が良  いのではないでしょうか?
 そういう意味では、枝豆をつまみながらビールを飲むというのは、理に適  っているのかも知れません。
消化剤(胃腸薬)の効果につきましては、様々に見解が分かれていますが、 アセトアルデヒドが血液中に増加すると、腸の運動まで抑制されて、食べた ものが消化されずに胃や腸の中に残ってしまい、なおさら吐き気や嘔吐の原 因となってしまうことが言われています。
それを防ぐ意味からも、お酒を飲む前に、消化剤をお飲みになることは、良 いことだと思います。
単なる消化促進剤ではなく、消化酵素の入ったものの方が(値段は高くなり ますが)良いのは、言うまでもありません。

また、肝臓の機能を良くするものとして、タウリンがあります。
ドリンク剤の中には、肝臓の代謝を助けるビタミンと共にタウリンが入って いるものもあり、お酒をお飲みになる前に飲まれると、良いと思います。

熊の胆(胃ではなく、胆嚢です)が古来より二日酔には良いとされてきました が、これは胆汁成分が効果を現していると言われ、それならば胆石の時の薬 である、ウルソデオキシコール酸を飲んだ方が効くかも知れません。


初出 Apr.5 1994
Last update Jan.19.2007

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